インドの聖地バラナシで、座ったまんまで死んでしまった、もう一人のよねっちからの遺言です。

よねっちA:
この部屋の壁、随分遠くなってもうたな。何かさっきから手足の動きがやたらと鈍いねんけど。脳ミソが命令してから手足が動くまで長い長い旅路やったけど、そいつが動いたことを脳ミソが知るまでにはもっと長くって、結局何で手足を動かそうとしたのか理由も忘れてもうた。世の中ってそんなモンやんな。では、「知る」とはどういうことか? ばら撒かれた「時」のパズルを脳細胞が食い尽くすこと?そしてそいつを発酵させることが「想像」? じゃあ「感じる」とは一体何やろう? 飢えた細胞どもが「時」の肥溜めに、わずかばかりの糞を撒き散らす現象か・・・? ところで俺は何でこんなこと考えてるんやろう?
よねっちB:
1つだけ確実なんは、お前(俺)はもう2度とこの迷路から脱け出されへんことやな。
よねっちA:
何言うてんねん! 明日になったらちゃんと朝が来るやんけ!!
よねっちB:
お前(俺)はまだ気付いてないんやな。自分が死んだこと・・・ここバラナシで、お前(俺)は座ったまんま死んだんやで。
よねっちA:
何でやねん! 俺は今ここで「現実に」瞑想しとるやんけ!! それに、「座ったまんま死んだ」って、一体何やねん?
よねっちB:
「現実」なんてのは、何通りもあるモンや。どれを選ぶかは自分自身の想像力次第やで。そもそもお前(俺)が認識してる世界とか、周りにいる人間なんてのも、自分自身が創り出した、ただの「想像」でしかないんやで。どうや?地面が無くなって宇宙を歩いてる感じやろ。
よねっちA:
そんなはずは無い。俺は生きてる!そうに決まってる!!
よねっちB:
まあ、無理は無いわな。自分が死んだこと認めたくなくて、いつまでも同じ所をグルグル回ってる奴、いっぱいおるもんな。ここに居るのはお前(俺)の魂だけやで。死ぬってのはそういうことや。お前(俺)の肉体は、昨日の夜、ガンガー(ガンジス川)に投げ込まれて、今は東岸(不浄の地)に流れ着いて、犬どもに喰いちぎられてるよ。




 よねっちを乗せたベッドはものすごい勢いで宇宙を落下してゆく。
厄介なことに、この後よねっちC、D、E、F・・・・・と人数がどんどん増えてゆき、どれが本物なのか分からなくなってくる。
 ここで「死」を認めてしまったら、もう2度と目覚められないかもしれない・・・そう思うと、眠るのが恐ろしくなってきた。しかしこのまま眠らなかったら、永遠にこの空間から出られないかもしれない・・・。恐怖で悶え苦しみ、体は渇き切ってしまい、口の中がパリパリになってきた。

よねっちZZ:
ぐおおおおおおーー!!こんなところで死んでたまるかあ!!絶対に生き延びてやる!!とにもかくにも、先ずこの宇宙から脱け出すのだ。絶対に朝が来ることを信じて眠るのだ。(来なかったらどうしよう・・・)うるさいんじゃ!!来るって言うたら来るんじゃ!!部屋の電気も自分の意志で消すのだ。目覚まし時計も自分の意志・セット・・・だ・・自・分・・の・・意思・・・で、・の・・・・い・し・・・・・・

 夜明け前である。イスラム教地区からコーランの声が響き渡る。その響きがよねっちの耳を右へ左へ規則正しくループ(反復)する。蚊の飛ぶ音や色んな物音なども次々に混ざりながらループの洪水となり、よねっちを飲み込んだまま阿鼻叫喚(注)の闇の底へと沈んでゆく・・・・・

 どうやら朝が来たようだ。腹が減っていたが、とりあえずガンガーを見に行った。階段を下りながら、聖なる水の匂いを嗅ぐ。対岸の東側は不浄の地。そう、よねっちは今、西岸のガート(聖なる沐浴場)に立ち、生きてることを「想像」している。

 (注)あびきょうかん・・・調べるべし。


               ●トップへ戻る ●よねっち紀行(目次)へ戻る 



よねっち印度紀行
宇宙の歩き方・完全解脱編

バラナシの街角

聖なる沐浴場

東岸の不浄の地

ガンガーで沐浴